《万両 南森町店》外観
あの大阪の大繁盛店が最初で最後の登壇!!●前編●
繁盛店の裏側と焼肉業界のこれから
大阪《焼肉 万両》×尼崎《味楽園》
赤身はブームからカテゴリーに
映えメニューは今後も進化続く
大阪でドミナント展開し、A5黒毛和牛の良質な肉をリーズナブルな価格で提供することで連日満席となっている「焼肉万両」代表の滝本昭人さんが、「これが最初で最後のセミナー」とした上で、2023年7月5・6日開催の「外食ソリューションEXPO」に登壇した。兵庫・尼崎の繁盛店「焼肉 冷麺 味楽園」代表の康虎哲さんを相手に、これまでの半生や「万両」の経営スタイル、焼肉業界についてなど、思いの丈を語った。
パネリスト
万両代表取締役
滝本昭人さん
●たきもと・あきひと●
1967年大阪府大阪市生まれ。25歳の時に廃業した9席の焼肉店を任され独立。大阪市内に店舗展開を絞り6店舗を運営。「ハイクオリティ大衆店」を目指し、飲食店の基本原則である「おいしくて安い」を地で行く経営スタイルで繁盛させている。
テムジン代表取締役社長
康 虎哲さん
●かん・ほちょる●
1974年兵庫県尼崎市生まれ。幼少期から家業の《味楽園》を手伝い高校卒業後に社員として就職。24~26歳の時に東京《叙々苑》で修業した後、実家に戻り現在に至る。先代の想いを引き継ぎ「1店舗重点主義」を掲げ、常に現場に立ち続けている。
もつ鍋ブームに乗り来店客ゼロが満席に
《万両 南森町店》の〈コテツ(コプチャン)〉
康虎哲(以下、康) 今回は繁盛店「焼肉 万両」の滝本さんをお呼びしました。その前に自己紹介しますと、私は家業の「味楽園」を引き継ぎました。焼肉店の子供の宿命で小学2年生の頃から鉄板洗いをしており、たたき上げてここまで来ました。傍からはボンボンでチャラチャラしているように見えるかもしれませんが、仕事はちゃんとしているつもりです。
滝本社長は、店舗を大阪市内に絞り、店長候補が育つまで待ち1店舗ずつ確実に店舗展開をして現在6店舗。創業31年目に突入しており、肉は店内調理仕込みにこだわっています。キムチ、ナムル、スープも当日仕込みで「ハイクオリティ大衆店」を目指しています。
25歳の時に、廃業した9席の焼肉店を任されたのがきっかけということですが、それまで何をしていたのでしょうか。
滝本昭人(以下、滝本) 例に違わず焼肉店にいました。学生の時はステーキハウス「スエヒロ」で働いていました。一時は席巻していたんですが、私が勤めていた時に倒産しました。その後は居酒屋、焼き鳥などを転々とし、25歳の時にたまたま通っていた大阪・南森町の焼肉店が潰れて「お前やってみろ。どうせ独立するんだろ」と言われ、少ない資金でスタートしました。
引き継いだ時は1日の売上が5000円くらいで、ゼロという日もありました。評判が悪くて潰れたわけだから、そのまま看板をチョロっと変えたぐらいではお客さんは来ません。当時は宣伝する方法もなかったので、店を開けているだけという状態でした。
康 何がきっかけで売上が上がったんでしょうか。
滝本 この後、半年後に大変なことが起こります。それが第1次もつ鍋ブームです。その頃、テレビを見ていたらキャベツがない、ニラが高い、ホルモンが手に入らないと伝えていて、店の冷蔵庫を開けたらホルモンは捨てるほどあったので、もつ鍋は食べたことないけど1回やってみようということで始めたら、次の日から満席でした。
康 もつ鍋を食べたことないのにどうやって作ったんですか。
滝本 鶴橋のお店を3、4軒食べに行ってこんな感じかと即席で作り、「焼肉屋のもつ鍋始めました」と貼り紙を出しました。当時も2人前からしか注文できませんという感じだったので、うちは9席のカウンターだから1人前ずつ出そうと1人前600円か650円で提供しました。これは最安値だったと思います。
手書きの紙を玄関に貼っただけで、その日から満席になるくらいもつ鍋が異常なブームだったんです。第1次もつ鍋ブームはほんとに恐ろしかったです。
康 ブームは長く続かないと思っていたんですか。
滝本 いや、1年半は売っていて、夏でも入ってきました。
康 1日5000円だった売上が、もつ鍋でどれぐらいまで跳ね上がりましたか。
滝本 5万円ぐらいまで跳ね上がりましたね。宣伝方法がないので看板と紹介だけでしたが、すぐに西天満辺りの弁護士さんがこぞって来るようになりました。珍しかったんでしょうね。
康 そのもつ鍋に見切りをつけて、焼肉に軌道修正したきっかけはあるんですか。
滝本 ある日、朝起きて今日止めようと思ったんです。お客さんのもつ鍋を食べている顔がそんなに感動している表情ではなく、とりあえず来たからもつ鍋を食べているという感じで、もう続かないなとお客さんの顔を見て分かった。
元々、焼肉店で焼肉台やロースターがあったので、それを出してまた始めました。最後の方はグダグダで、「お前のところ焼肉屋だったら、焼肉も出せ」と、お客さん自身がもう飽きてきている感じでした。止めた後は8~10万円あった売上が一気に半分近くまで落ちました。
《味楽園》の外観
後付け経営するため講演への依頼受けず
康 その売上が半分近く落ちた店を、どうやって今の超繁盛店までもってきたのか。これから自社の特徴、得意・苦手分野、どういう戦略で経営していくか、表には出さないけれど考えていること、今後のビジョンという流れで深掘りしていこうと思います。まずは、セミナーのテーマにした2030年までの7年間で何があるのかをお聞きします。
滝本 大阪万博が25年なので次の切りのいい数字が30年ということです。30年といえば、大阪府・市で運営を目指すカジノを中心とした統合型リゾート施設が開業予定で、日本初のカジノが夢洲にできるので、それに向かって色々施策が出ています。
カジノは基本24時間営業が義務付けられているのでインパクトがあり、万博の跡地を使った敷地面積はマカオを超えて東洋圏最大になります。ユニバーサルスタジオジャパンも近いですし、南側からの経済効果も大きいと思います。
難波から御堂筋の側道を歩道にして、大阪にシャンゼリゼ通りを作るという工事を進めており、これも30 年完成という計画です。広くなった歩道では、路上で絵や器を売ったり、カフェやキッチンカーが営業するという話を聞いているので、まだまだ伸びていくという意味で30年にしました。
康 大阪の景気もこれからは上り調子になるんじゃないかということですね。では次に、滝本社長と初めて会った時に、この人すごいなと思ったんです。私もかなり喋る方ですけどよく喋って、私が初めて負けたと思ったんですね。間髪入れないんですよ。お互いずっと喋りっぱなしで。でも考え方がすごくロジカルなんです。
どこでそんな情報知ったんですか、というくらい情報網が広い。先程のIRの話のように焼肉以外の外的要因や市場の流れも含めてすごく勉強していて、焼肉業でもそこまでしないといけないんだなって思わされます。そこで、一度この方と壇上で話すことで皆さんにこういう考え方もあるということを伝えたいと思い電話したら「関西でいつもやってるビジネスフェアですか。登壇しません」と即答されました。
「ちょっと待って下さい。話だけでも聞いて下さい」となんとかアポを取って日本橋の新店までお伺いしたんですね。それで3時間口説きに口説いてやっとOKを頂きました。
私は「万両」の出身者も呼んでパネルディスカッションするイメージだったんですが、滝本社長から逆に「康さんとサシだったら出るけど、そうじゃないなら出ない」と条件を付けられました。そして、もう1つの条件が「これが最初で最後です」ということでした。「私は各方面・各団体様から31年間、講演の依頼をすべて断ってきた。でも今回、康さんがそこまで言うなら出ますがこれが最後ですよ」と。業界でも有名なセミナー嫌いの滝本社長が今回、なぜ登壇を決意したんですか。
滝本 1段高い所からお話しすると、何かと偉そうに聞こえてしまうのと、みんなに響かせるためには言い切らないといけない部分があるんですね。ただ、言い切ってしまうと、それに自分自身が影響されてしまう。「そうしないといけない」という風に自分自身がなってしまいます。
経営は1つの方向ではなく、うまくいかない時は修正しないとダメなんです。従業員相手なら「ダメでした。すみません」と謝れるんですが、セミナーを聞いて実践したらダメだったという時には、もう謝ることができない。
それと年商10億円超で6店舗までの悩みにはすぐに答えられます。私は店舗を増やしたいという気持ちではなく、店長候補が育ったら「よし店を出そう」という形で少しずつ出してきているので、31年で6店舗というのは少ないと捉えられるかと思います。
私は経営は後付けだと思うんですよね。現場で立っていると、超繁盛店という感覚は薄いんです。注文されたものを作るだけなので。最初の頃に6店舗まで増やすとか、東京に進出するとか上場するとか決めることは難しい。後付けにしたいからこそ、オフィシャルな場所であまり喋らないようにしています。喋ってしまうとそれを実現せざるを得なくなるので。失敗した時もすみませんと謝りたいので、セミナーは控えていました。
康 本のオファーもあったんですか。
滝本 本はないですが、書くと失敗します。現役を引退した場合は別ですが、現役で本を書くと、その内容にだいぶ引っ張られるんじゃないかと思います。従業員に「この本を読め」と渡すとバイブル的になって、変更できなくなってしまう。
《万両 天神橋店》の外観
同店は石網を採用している
飲食は「飲」ありきで日本酒なら15品必要
同店は70種以上のワインを揃える
康 次に、私もそうですが今も現場に立ち続ける理由ですね。各店舗を転々としているんですか。
滝本 転々とはしません。南森町店に週に1回出勤し、あとはメンバーが弱いところに行きます。
康 根本的に仕事と焼肉が好きなんですよね。
滝本 それもありますし、現場でしか分からないこともたくさんあります。やはり現場には全ての答えが詰まっているので、現場に出ていない時間が長くなると何かおかしなことが起こったりしますよね。もちろん、店長に任せたのに、しょっちゅう顔を出すのもよくない。信頼できる店長がいたら任せないといけないですね。経営は後付けということもあるんですが、何より経営はどこまで我慢できるかです。少しおかしいぐらいでは何も言ってはいけない。もう我慢して任せる。
康 信じていると言いながら色々口出ししちゃうと店長の立場がないですもんね。
滝本 そうなんです。店長に口出ししたいと思ったら現場に入らないとダメですね。それもちょろっと入って変えていくんじゃなくて、スタートからラストまでガチっと入らないとダメです。ラストの片付けがどうなっているのか、オープンの準備がどうなっているのかを見て、それで初めて店長と話するぐらいじゃないと。現場に入ればトイレの汚さやスタッフ同士の会話、空気感とかで分かります。外からの時は言わずに我慢です。我慢できないと次の店舗展開に進めない。あと、例えば売上が悪い店は大体、店内が汚い。清掃レベルが落ちると売上が落ちます。
康 現場に立つ人間として店の清潔さもそうですが、答えは現場にあると口では言えても、目を伏せたいというか、見たくないところや聞きたくないところもあるわけですよ。その中でガッツリとオーナー自ら店に立って、従業員との信頼関係を築きあげたからこその今の繁盛店かなと改めて思います。同じ気持ちと言ったら失礼ですが、私も今日、これが終わったら帰って仕込みでラストまで現場に入るので、毎日休むことはないです。
滝本 私もこの後は仕事です。
康 今度、打ち上げいきましょうって誘われても。
滝本 行きません。
康 かっこいいですね。こういう所が好きなんですよ。現場人間として。
では次です。今の焼肉業界の流れということも含めてここ数年、赤身肉、熟成肉、コース仕立て、会員制、高級食材と肉を組み合わせた料理、あとは日本酒、ワインなど。焼肉業界といいながらさまざまな形で盛り上がりを見せていますが、この流れについて率直な意見を聞かせて下さい。
滝本 お客さんを見ていると、赤身は完全にブームというよりカテゴリーとして受け入れられています。赤身肉の最高は〈ヒレ〉なんですが、うちは当然〈ヒレ〉を扱っていません。値段が高くて、客単価を考えたら扱いづらい肉だと思うし、焼いている途中で休ませたりと、うまく焼かないとポテンシャルを発揮できないので。だから、〈ヒレ〉はスタッフがつきっきりにならないと厳しい。
他の赤身肉はかなりのアイテム数で扱っています。今後もこのブームは続くと思います。ただ、〈イチボ〉と〈マルシン〉の味の違いはどうかというように、当然これから各々で工夫されると思うので、そこはパクリパクられで発展していくでしょう。
熟成肉は今からだと厳しいかなと思います。可能性はあると思うけれど、歩留まりも悪くなるし、温度計のような測定器があれば別ですが、アミノ酸スコアも難しいので手を出さなかったですね。
コース仕立てや会員制、ウニやイクラといった高級食材を組み合わせた映えるメニューなどは、どこかが出すと「よしパクろう」となり進化を続けていくでしょう。
飲料について、焼肉店で「飲」に力を入れていない店は多いですね。もっと「飲」に力を入れるべきかなと思います。飲食は「飲」ありきでスタートするので、ビール、ハイボールだけでいいという考えでは厳しい。日本酒も売れないからと3、4種しか置かないような店は売れないと思います。
うちは6店舗のうち2店舗では日本酒を1本も置いていません。1、2本置くくらいなら、むしろバッサリ置かない方がいいし、売るつもりがあるなら最低限15アイテムぐらい必要です。
もちろん、日本酒もリーチインの中で保管しないとダメですし、抜栓した日付をしっかり書いて味のチェックも必要です。どちらかというと「万両」はワイン推しで、1店舗につき約60種は置いています。これぐらい売らないとワインはちょっと出ないかなと。当然グラスにもこだわりがあって、リーデルのグラスを使っています。
《万両 本町御堂筋店》の半個室
悪意あるも嘘はない口コミ重視し返信も
康 焼肉店なので肉に詳しいのは当然ですが、滝本社長は日本酒にもすごく詳しく、ワインは自身でソムリエ資格を持っているんですよね。さらに今回新しくオープンした日本橋の店舗はソムリエが1人在駐しているんです。客単価は一般的な下町の焼肉店なのにソムリエがいて、ワインもビオワインにこだわっています。大体常時何本ぐらいありますか。
滝本 ビオワインで60種は置いています。
康 店ごとにコンセプトが違っていて、日本橋店では、とりあえず飲んで欲しいからとお試し価格として、1杯目の白ワインを100円で出すんです。
滝本 まだ浸透してませんが続けることが大切です。白ワインは全部売れるということがなく、どうしても余るので捨てることになります。焼肉なので赤ワインばかり出ますが、実は白も合うんですよ。ビールの後にハイボールやレモンチューハイと進む前に、1つのフックとして100円の白ワインを入れることで口がワインになります。
お客さんは面倒くさがる傾向があるので、ワインの口になるとずっとワインを注文します。これが正しいかどうかはわかりませんが、ワインの口に誘うための方法です。
これを本に書いてしまうと、ずっと続けないといけなくなってしまうけれど、何カ月か試して、イマイチだったら止めます。全店で導入しているのではなく、ここはソムリエが在駐している店なので試してみました。そして、無農薬ワインも扱ってみたいと思っていたので、日本橋店はビオワインのみにしました。「ビオ」がどこまでお客さんに響くか、現場の声を集めたいと思ったんです。
もう1つ、2人客のうち1人がウーロン茶で1人がワインを100円で飲んだ後、「連れが飲まなくても注文した場合も100円になるんですか」と聞かれました。
康 車を運転していて飲めないけど、1杯目として注文して、代わりに連れの相手に飲んでもらうということですね。
滝本 それはOKにしています。なぜかというと、大阪で言うところの「アホになる」というんですかね。わざとそうしています。利益が出るわけじゃないけれど、オーガニックの白ワインは、仕入れ値で800円ぐらいでもそこそこの味わいのものがあるので、こっちがわざと騙された的な感じで隙をみせる。どうせ100円にしたんだから、細かいルールを作るのもどうかと思うので。
康 ビオワインの需要を高めるためというか、文化として根付かせるためでもありますしね。
滝本 そうです。あと、ワインの口にして、「もう面倒くさいからボトルの赤にしよう」と言わせる狙いもあります。
康 ソムリエのバッジを付けた女性がいるので、「おすすめは?」と言わせたらこっちのものですよね。
滝本 そういうことです。それを今回試していて、失敗したらすみませんってやつですね。
康 先程のもつ鍋にしても見切り早いですよね。ワインにしても、止めようと決めたら翌日には止める。昔から切り替えは早いんですか。
滝本 粘りますけど、なんでダメだったのかなと一旦止めて引き出しにしまい、またタイミングがあれば出していくという風に考えています。ワインの100円戦略もどこまでいくのかはわからないですね。
康 でも女性は喜びますよね。
滝本 はい。ビオは女性に響きますね。
康 では次に、今のようにお客さんのニーズがますます多様化、高度化して、年々ハードルが上がりますよね。初来店のお客さんもSNSで既にこの店に何があり、どんなスタッフがいて、どういう料理が出て、どんなサービスがあるか、来る前から全部手の内を知っている状態で来る。そのSNSによって飲食店は喜ばされたり泣かされたりと色々ある中で、現在のお客さんはどういう考えで飲食を楽しんでいると考えていますか。
滝本 現場に立ちながら感じるのは、今のお客さんは「とにかく失敗したくない。とにかく外したくない」という考えが、コロナ禍を経てかなり強いように思います。特にグーグルマップの書き込みは基本的に削除できないので、最新の書き込みや最低の書き込みを読んでから来店してきます。
康 ネットの書き込みはチェックしますか。
滝本 書き込みにはものすごく敏感です。グーグルだったら書き込みされると店長や私に通知が飛んできますので。いい書き込みであろうが悪い書き込みであろうが。
康 私はしたことないですが、返信もするんですか。
滝本 返信します。最近は返信に対する返信が来て、更に悪く書き込まれます。
康 私はネットの口コミなどは見ないんですよ。意外とこう見えてメンタルが弱いんで。
滝本 私もメンタルは弱いし放っておけとは思うけれど、その書き込みを書いたお客さんの後ろには、同じような気持ちのお客さんが100人以上いると思っているので、書き込みはすごく嫌ですけど重要視しています。「トイレが汚い」という書き込みがあって見に行くと、実際に汚いですからね。悪意はあるかもしれないけれど嘘は書いていないと思っているので、真摯に受け止めて必ず拾い上げます。
同店の看板メニュー〈骨付特上カルビ〉
高原価率での提供は売り切り前提で実現
康 市場の環境やニーズが激変していますが、「万両」さんは勝ち残るためにどのような施策を考えていますか。
滝本 経営というのは、誰かに教わったり指導されたりするわけではないので、今の方法が正しいかどうか知ることは難しいと思うんですよね。だから、お客さんに喜んでもらうことを常に念頭に置いてやり続けるということです。例えば、うちはFLコストで何か特別な魔法があるような言われ方されますけど、それは全然ありません。
康 絶対あると思うんですよ。あの値段であのクオリティは絶対おかしいなって。
滝本 結局は簡単なことで、全てをFLコストに集中するということで、「スシロー」さんと同じです。大体FLコストで83~84、86超えると赤字になります。
康 Fはいくらなんですか。
滝本 Fが57くらいで、Lが25だったら合うかな。
康 Fで57って家賃踏み倒さないと絶対営業できないレベルですよね。
滝本 だから家賃の高いビルなどには入れないです。
康 飲食店でこのFLの数字は初めて聞きました。この点は後で詳しく聞きます。次に価格設定の考え方について、「万両」さんが安いのは裏側というかトリックがあると思うので、値決めの考え方を教えてください。
滝本 原価率何%という考え方もあるけれど、例えば、この仕入れた肉はこれぐらいの価格で売らないとあかんよねという感覚があるので、まずは売り切るということを念頭に置いています。自分なら、この味の肉を食べていくら出すかなというところからスタートして売り切ってしまう。
いくら原価率を考えて値付けしても余ると計算が変わってくる。原価を考えた時に、捨てる部分やロスになる部分もありますが、全部売り切った状態を念頭に計算して、初めてパーセンテージは出てくる。だから、私自身は必ず売り切るというつもりで、実際に全部売れたらもう少し高く売ろうかとか、そういう感じで細かく上げています。
康 つまり、いつ行っても全てのメニューが全部揃っている状況ではなく、これは品切れとか、これは限定とかで売り切るようにメニュー構成も考えているということですか。
滝本 そうですね。私達の若い時代は売り切れは作るなと怒られました。しかし近年は売り切れると、次には食べたいから予約するという流れでした。ただ、今は売り切れの時のお客さんのショックが大きくなっていて、時代が1周回って売り切れを作らない方向性が好まれています。先程話した通り、お客さんは失敗したくないので、「せっかく来たのに食べられないなら、もういいや」と他に流れるケースはありますね。
康 私は、食品ロスが問題になっている時代の流れで、食材を残したくないというお客さんに対するメッセージとして売り切れも受け入れられるかなと思っています。コロナ後も深夜枠が弱くなっているので、そこで調整してデータを取っていかないと、トリミング後のロスだと、それこそグラムいくらでの損失となりますから。