福ばたさんのWEBニューコレ
《万両 肥後橋店》の外観
《万両 南森町店》外観
あの大阪の大繁盛店が最初で最後の登壇!!●前編●
繁盛店の裏側と焼肉業界のこれから
大阪《焼肉 万両》×尼崎《味楽園》
赤身はブームからカテゴリーに
映えメニューは今後も進化続く
大阪でドミナント展開し、A5黒毛和牛の良質な肉をリーズナブルな価格で提供することで連日満席となっている「焼肉万両」代表の滝本昭人さんが、「これが最初で最後のセミナー」とした上で、2023年7月5・6日開催の「外食ソリューションEXPO」に登壇した。兵庫・尼崎の繁盛店「焼肉 冷麺 味楽園」代表の康虎哲さんを相手に、これまでの半生や「万両」の経営スタイル、焼肉業界についてなど、思いの丈を語った。
パネリスト
万両代表取締役
滝本昭人さん
●たきもと・あきひと●
1967年大阪府大阪市生まれ。25歳の時に廃業した9席の焼肉店を任され独立。大阪市内に店舗展開を絞り6店舗を運営。「ハイクオリティ大衆店」を目指し、飲食店の基本原則である「おいしくて安い」を地で行く経営スタイルで繁盛させている。
テムジン代表取締役社長
康 虎哲さん
●かん・ほちょる●
1974年兵庫県尼崎市生まれ。幼少期から家業の《味楽園》を手伝い高校卒業後に社員として就職。24~26歳の時に東京《叙々苑》で修業した後、実家に戻り現在に至る。先代の想いを引き継ぎ「1店舗重点主義」を掲げ、常に現場に立ち続けている。
もつ鍋ブームに乗り来店客ゼロが満席に
《万両 南森町店》の〈コテツ(コプチャン)〉
《万両 南森町店》の〈コテツ(コプチャン)〉
康虎哲(以下、康) 今回は繁盛店「焼肉 万両」の滝本さんをお呼びしました。その前に自己紹介しますと、私は家業の「味楽園」を引き継ぎました。焼肉店の子供の宿命で小学2年生の頃から鉄板洗いをしており、たたき上げてここまで来ました。傍からはボンボンでチャラチャラしているように見えるかもしれませんが、仕事はちゃんとしているつもりです。
滝本社長は、店舗を大阪市内に絞り、店長候補が育つまで待ち1店舗ずつ確実に店舗展開をして現在6店舗。創業31年目に突入しており、肉は店内調理仕込みにこだわっています。キムチ、ナムル、スープも当日仕込みで「ハイクオリティ大衆店」を目指しています。
25歳の時に、廃業した9席の焼肉店を任されたのがきっかけということですが、それまで何をしていたのでしょうか。
滝本昭人(以下、滝本) 例に違わず焼肉店にいました。学生の時はステーキハウス「スエヒロ」で働いていました。一時は席巻していたんですが、私が勤めていた時に倒産しました。その後は居酒屋、焼き鳥などを転々とし、25歳の時にたまたま通っていた大阪・南森町の焼肉店が潰れて「お前やってみろ。どうせ独立するんだろ」と言われ、少ない資金でスタートしました。
引き継いだ時は1日の売上が5000円くらいで、ゼロという日もありました。評判が悪くて潰れたわけだから、そのまま看板をチョロっと変えたぐらいではお客さんは来ません。当時は宣伝する方法もなかったので、店を開けているだけという状態でした。
康  何がきっかけで売上が上がったんでしょうか。
滝本 この後、半年後に大変なことが起こります。それが第1次もつ鍋ブームです。その頃、テレビを見ていたらキャベツがない、ニラが高い、ホルモンが手に入らないと伝えていて、店の冷蔵庫を開けたらホルモンは捨てるほどあったので、もつ鍋は食べたことないけど1回やってみようということで始めたら、次の日から満席でした。
 もつ鍋を食べたことないのにどうやって作ったんですか。
滝本 鶴橋のお店を3、4軒食べに行ってこんな感じかと即席で作り、「焼肉屋のもつ鍋始めました」と貼り紙を出しました。当時も2人前からしか注文できませんという感じだったので、うちは9席のカウンターだから1人前ずつ出そうと1人前600円か650円で提供しました。これは最安値だったと思います。
手書きの紙を玄関に貼っただけで、その日から満席になるくらいもつ鍋が異常なブームだったんです。第1次もつ鍋ブームはほんとに恐ろしかったです。
康  ブームは長く続かないと思っていたんですか。
滝本 いや、1年半は売っていて、夏でも入ってきました。
康  1日5000円だった売上が、もつ鍋でどれぐらいまで跳ね上がりましたか。
滝本 5万円ぐらいまで跳ね上がりましたね。宣伝方法がないので看板と紹介だけでしたが、すぐに西天満辺りの弁護士さんがこぞって来るようになりました。珍しかったんでしょうね。
  そのもつ鍋に見切りをつけて、焼肉に軌道修正したきっかけはあるんですか。
滝本 ある日、朝起きて今日止めようと思ったんです。お客さんのもつ鍋を食べている顔がそんなに感動している表情ではなく、とりあえず来たからもつ鍋を食べているという感じで、もう続かないなとお客さんの顔を見て分かった。
元々、焼肉店で焼肉台やロースターがあったので、それを出してまた始めました。最後の方はグダグダで、「お前のところ焼肉屋だったら、焼肉も出せ」と、お客さん自身がもう飽きてきている感じでした。止めた後は8~10万円あった売上が一気に半分近くまで落ちました。
《味楽園》の外観
《味楽園》の外観
後付け経営するため講演への依頼受けず
康  その売上が半分近く落ちた店を、どうやって今の超繁盛店までもってきたのか。これから自社の特徴、得意・苦手分野、どういう戦略で経営していくか、表には出さないけれど考えていること、今後のビジョンという流れで深掘りしていこうと思います。まずは、セミナーのテーマにした2030年までの7年間で何があるのかをお聞きします。
滝本 大阪万博が25年なので次の切りのいい数字が30年ということです。30年といえば、大阪府・市で運営を目指すカジノを中心とした統合型リゾート施設が開業予定で、日本初のカジノが夢洲にできるので、それに向かって色々施策が出ています。
カジノは基本24時間営業が義務付けられているのでインパクトがあり、万博の跡地を使った敷地面積はマカオを超えて東洋圏最大になります。ユニバーサルスタジオジャパンも近いですし、南側からの経済効果も大きいと思います。
難波から御堂筋の側道を歩道にして、大阪にシャンゼリゼ通りを作るという工事を進めており、これも30 年完成という計画です。広くなった歩道では、路上で絵や器を売ったり、カフェやキッチンカーが営業するという話を聞いているので、まだまだ伸びていくという意味で30年にしました。
康  大阪の景気もこれからは上り調子になるんじゃないかということですね。では次に、滝本社長と初めて会った時に、この人すごいなと思ったんです。私もかなり喋る方ですけどよく喋って、私が初めて負けたと思ったんですね。間髪入れないんですよ。お互いずっと喋りっぱなしで。でも考え方がすごくロジカルなんです。
どこでそんな情報知ったんですか、というくらい情報網が広い。先程のIRの話のように焼肉以外の外的要因や市場の流れも含めてすごく勉強していて、焼肉業でもそこまでしないといけないんだなって思わされます。そこで、一度この方と壇上で話すことで皆さんにこういう考え方もあるということを伝えたいと思い電話したら「関西でいつもやってるビジネスフェアですか。登壇しません」と即答されました。
「ちょっと待って下さい。話だけでも聞いて下さい」となんとかアポを取って日本橋の新店までお伺いしたんですね。それで3時間口説きに口説いてやっとOKを頂きました。
私は「万両」の出身者も呼んでパネルディスカッションするイメージだったんですが、滝本社長から逆に「康さんとサシだったら出るけど、そうじゃないなら出ない」と条件を付けられました。そして、もう1つの条件が「これが最初で最後です」ということでした。「私は各方面・各団体様から31年間、講演の依頼をすべて断ってきた。でも今回、康さんがそこまで言うなら出ますがこれが最後ですよ」と。業界でも有名なセミナー嫌いの滝本社長が今回、なぜ登壇を決意したんですか。
滝本 1段高い所からお話しすると、何かと偉そうに聞こえてしまうのと、みんなに響かせるためには言い切らないといけない部分があるんですね。ただ、言い切ってしまうと、それに自分自身が影響されてしまう。「そうしないといけない」という風に自分自身がなってしまいます。
経営は1つの方向ではなく、うまくいかない時は修正しないとダメなんです。従業員相手なら「ダメでした。すみません」と謝れるんですが、セミナーを聞いて実践したらダメだったという時には、もう謝ることができない。
それと年商10億円超で6店舗までの悩みにはすぐに答えられます。私は店舗を増やしたいという気持ちではなく、店長候補が育ったら「よし店を出そう」という形で少しずつ出してきているので、31年で6店舗というのは少ないと捉えられるかと思います。
私は経営は後付けだと思うんですよね。現場で立っていると、超繁盛店という感覚は薄いんです。注文されたものを作るだけなので。最初の頃に6店舗まで増やすとか、東京に進出するとか上場するとか決めることは難しい。後付けにしたいからこそ、オフィシャルな場所であまり喋らないようにしています。喋ってしまうとそれを実現せざるを得なくなるので。失敗した時もすみませんと謝りたいので、セミナーは控えていました。
康  本のオファーもあったんですか。
滝本 本はないですが、書くと失敗します。現役を引退した場合は別ですが、現役で本を書くと、その内容にだいぶ引っ張られるんじゃないかと思います。従業員に「この本を読め」と渡すとバイブル的になって、変更できなくなってしまう。
《万両 天神橋店》の外観
《万両 天神橋店》の外観
同店は石網を採用している
同店は石網を採用している
飲食は「飲」ありきで日本酒なら15品必要
同店は70種以上のワインを揃える
同店は70種以上のワインを揃える
  次に、私もそうですが今も現場に立ち続ける理由ですね。各店舗を転々としているんですか。
滝本 転々とはしません。南森町店に週に1回出勤し、あとはメンバーが弱いところに行きます。
  根本的に仕事と焼肉が好きなんですよね。
滝本 それもありますし、現場でしか分からないこともたくさんあります。やはり現場には全ての答えが詰まっているので、現場に出ていない時間が長くなると何かおかしなことが起こったりしますよね。もちろん、店長に任せたのに、しょっちゅう顔を出すのもよくない。信頼できる店長がいたら任せないといけないですね。経営は後付けということもあるんですが、何より経営はどこまで我慢できるかです。少しおかしいぐらいでは何も言ってはいけない。もう我慢して任せる。
康  信じていると言いながら色々口出ししちゃうと店長の立場がないですもんね。
滝本 そうなんです。店長に口出ししたいと思ったら現場に入らないとダメですね。それもちょろっと入って変えていくんじゃなくて、スタートからラストまでガチっと入らないとダメです。ラストの片付けがどうなっているのか、オープンの準備がどうなっているのかを見て、それで初めて店長と話するぐらいじゃないと。現場に入ればトイレの汚さやスタッフ同士の会話、空気感とかで分かります。外からの時は言わずに我慢です。我慢できないと次の店舗展開に進めない。あと、例えば売上が悪い店は大体、店内が汚い。清掃レベルが落ちると売上が落ちます。
  現場に立つ人間として店の清潔さもそうですが、答えは現場にあると口では言えても、目を伏せたいというか、見たくないところや聞きたくないところもあるわけですよ。その中でガッツリとオーナー自ら店に立って、従業員との信頼関係を築きあげたからこその今の繁盛店かなと改めて思います。同じ気持ちと言ったら失礼ですが、私も今日、これが終わったら帰って仕込みでラストまで現場に入るので、毎日休むことはないです。
滝本 私もこの後は仕事です。
康  今度、打ち上げいきましょうって誘われても。
滝本 行きません。
  かっこいいですね。こういう所が好きなんですよ。現場人間として。
では次です。今の焼肉業界の流れということも含めてここ数年、赤身肉、熟成肉、コース仕立て、会員制、高級食材と肉を組み合わせた料理、あとは日本酒、ワインなど。焼肉業界といいながらさまざまな形で盛り上がりを見せていますが、この流れについて率直な意見を聞かせて下さい。
滝本 お客さんを見ていると、赤身は完全にブームというよりカテゴリーとして受け入れられています。赤身肉の最高は〈ヒレ〉なんですが、うちは当然〈ヒレ〉を扱っていません。値段が高くて、客単価を考えたら扱いづらい肉だと思うし、焼いている途中で休ませたりと、うまく焼かないとポテンシャルを発揮できないので。だから、〈ヒレ〉はスタッフがつきっきりにならないと厳しい。
他の赤身肉はかなりのアイテム数で扱っています。今後もこのブームは続くと思います。ただ、〈イチボ〉と〈マルシン〉の味の違いはどうかというように、当然これから各々で工夫されると思うので、そこはパクリパクられで発展していくでしょう。
熟成肉は今からだと厳しいかなと思います。可能性はあると思うけれど、歩留まりも悪くなるし、温度計のような測定器があれば別ですが、アミノ酸スコアも難しいので手を出さなかったですね。
コース仕立てや会員制、ウニやイクラといった高級食材を組み合わせた映えるメニューなどは、どこかが出すと「よしパクろう」となり進化を続けていくでしょう。
飲料について、焼肉店で「飲」に力を入れていない店は多いですね。もっと「飲」に力を入れるべきかなと思います。飲食は「飲」ありきでスタートするので、ビール、ハイボールだけでいいという考えでは厳しい。日本酒も売れないからと3、4種しか置かないような店は売れないと思います。
うちは6店舗のうち2店舗では日本酒を1本も置いていません。1、2本置くくらいなら、むしろバッサリ置かない方がいいし、売るつもりがあるなら最低限15アイテムぐらい必要です。
もちろん、日本酒もリーチインの中で保管しないとダメですし、抜栓した日付をしっかり書いて味のチェックも必要です。どちらかというと「万両」はワイン推しで、1店舗につき約60種は置いています。これぐらい売らないとワインはちょっと出ないかなと。当然グラスにもこだわりがあって、リーデルのグラスを使っています。
《万両 本町御堂筋店》の半個室
《万両 本町御堂筋店》の半個室
悪意あるも嘘はない口コミ重視し返信も
  焼肉店なので肉に詳しいのは当然ですが、滝本社長は日本酒にもすごく詳しく、ワインは自身でソムリエ資格を持っているんですよね。さらに今回新しくオープンした日本橋の店舗はソムリエが1人在駐しているんです。客単価は一般的な下町の焼肉店なのにソムリエがいて、ワインもビオワインにこだわっています。大体常時何本ぐらいありますか。
滝本 ビオワインで60種は置いています。
  店ごとにコンセプトが違っていて、日本橋店では、とりあえず飲んで欲しいからとお試し価格として、1杯目の白ワインを100円で出すんです。
滝本 まだ浸透してませんが続けることが大切です。白ワインは全部売れるということがなく、どうしても余るので捨てることになります。焼肉なので赤ワインばかり出ますが、実は白も合うんですよ。ビールの後にハイボールやレモンチューハイと進む前に、1つのフックとして100円の白ワインを入れることで口がワインになります。
お客さんは面倒くさがる傾向があるので、ワインの口になるとずっとワインを注文します。これが正しいかどうかはわかりませんが、ワインの口に誘うための方法です。
これを本に書いてしまうと、ずっと続けないといけなくなってしまうけれど、何カ月か試して、イマイチだったら止めます。全店で導入しているのではなく、ここはソムリエが在駐している店なので試してみました。そして、無農薬ワインも扱ってみたいと思っていたので、日本橋店はビオワインのみにしました。「ビオ」がどこまでお客さんに響くか、現場の声を集めたいと思ったんです。
もう1つ、2人客のうち1人がウーロン茶で1人がワインを100円で飲んだ後、「連れが飲まなくても注文した場合も100円になるんですか」と聞かれました。
  車を運転していて飲めないけど、1杯目として注文して、代わりに連れの相手に飲んでもらうということですね。
滝本 それはOKにしています。なぜかというと、大阪で言うところの「アホになる」というんですかね。わざとそうしています。利益が出るわけじゃないけれど、オーガニックの白ワインは、仕入れ値で800円ぐらいでもそこそこの味わいのものがあるので、こっちがわざと騙された的な感じで隙をみせる。どうせ100円にしたんだから、細かいルールを作るのもどうかと思うので。
  ビオワインの需要を高めるためというか、文化として根付かせるためでもありますしね。
滝本 そうです。あと、ワインの口にして、「もう面倒くさいからボトルの赤にしよう」と言わせる狙いもあります。
  ソムリエのバッジを付けた女性がいるので、「おすすめは?」と言わせたらこっちのものですよね。
滝本 そういうことです。それを今回試していて、失敗したらすみませんってやつですね。
  先程のもつ鍋にしても見切り早いですよね。ワインにしても、止めようと決めたら翌日には止める。昔から切り替えは早いんですか。
滝本 粘りますけど、なんでダメだったのかなと一旦止めて引き出しにしまい、またタイミングがあれば出していくという風に考えています。ワインの100円戦略もどこまでいくのかはわからないですね。
  でも女性は喜びますよね。
滝本 はい。ビオは女性に響きますね。
  では次に、今のようにお客さんのニーズがますます多様化、高度化して、年々ハードルが上がりますよね。初来店のお客さんもSNSで既にこの店に何があり、どんなスタッフがいて、どういう料理が出て、どんなサービスがあるか、来る前から全部手の内を知っている状態で来る。そのSNSによって飲食店は喜ばされたり泣かされたりと色々ある中で、現在のお客さんはどういう考えで飲食を楽しんでいると考えていますか。
滝本 現場に立ちながら感じるのは、今のお客さんは「とにかく失敗したくない。とにかく外したくない」という考えが、コロナ禍を経てかなり強いように思います。特にグーグルマップの書き込みは基本的に削除できないので、最新の書き込みや最低の書き込みを読んでから来店してきます。
  ネットの書き込みはチェックしますか。
滝本 書き込みにはものすごく敏感です。グーグルだったら書き込みされると店長や私に通知が飛んできますので。いい書き込みであろうが悪い書き込みであろうが。   私はしたことないですが、返信もするんですか。
滝本 返信します。最近は返信に対する返信が来て、更に悪く書き込まれます。
  私はネットの口コミなどは見ないんですよ。意外とこう見えてメンタルが弱いんで。
滝本 私もメンタルは弱いし放っておけとは思うけれど、その書き込みを書いたお客さんの後ろには、同じような気持ちのお客さんが100人以上いると思っているので、書き込みはすごく嫌ですけど重要視しています。「トイレが汚い」という書き込みがあって見に行くと、実際に汚いですからね。悪意はあるかもしれないけれど嘘は書いていないと思っているので、真摯に受け止めて必ず拾い上げます。
同店の看板メニュー〈骨付特上カルビ〉
同店の看板メニュー〈骨付特上カルビ〉
高原価率での提供は売り切り前提で実現
  市場の環境やニーズが激変していますが、「万両」さんは勝ち残るためにどのような施策を考えていますか。
滝本 経営というのは、誰かに教わったり指導されたりするわけではないので、今の方法が正しいかどうか知ることは難しいと思うんですよね。だから、お客さんに喜んでもらうことを常に念頭に置いてやり続けるということです。例えば、うちはFLコストで何か特別な魔法があるような言われ方されますけど、それは全然ありません。
  絶対あると思うんですよ。あの値段であのクオリティは絶対おかしいなって。
滝本 結局は簡単なことで、全てをFLコストに集中するということで、「スシロー」さんと同じです。大体FLコストで83~84、86超えると赤字になります。
  Fはいくらなんですか。
滝本 Fが57くらいで、Lが25だったら合うかな。
  Fで57って家賃踏み倒さないと絶対営業できないレベルですよね。
滝本 だから家賃の高いビルなどには入れないです。
  飲食店でこのFLの数字は初めて聞きました。この点は後で詳しく聞きます。次に価格設定の考え方について、「万両」さんが安いのは裏側というかトリックがあると思うので、値決めの考え方を教えてください。
滝本 原価率何%という考え方もあるけれど、例えば、この仕入れた肉はこれぐらいの価格で売らないとあかんよねという感覚があるので、まずは売り切るということを念頭に置いています。自分なら、この味の肉を食べていくら出すかなというところからスタートして売り切ってしまう。
いくら原価率を考えて値付けしても余ると計算が変わってくる。原価を考えた時に、捨てる部分やロスになる部分もありますが、全部売り切った状態を念頭に計算して、初めてパーセンテージは出てくる。だから、私自身は必ず売り切るというつもりで、実際に全部売れたらもう少し高く売ろうかとか、そういう感じで細かく上げています。
  つまり、いつ行っても全てのメニューが全部揃っている状況ではなく、これは品切れとか、これは限定とかで売り切るようにメニュー構成も考えているということですか。
滝本 そうですね。私達の若い時代は売り切れは作るなと怒られました。しかし近年は売り切れると、次には食べたいから予約するという流れでした。ただ、今は売り切れの時のお客さんのショックが大きくなっていて、時代が1周回って売り切れを作らない方向性が好まれています。先程話した通り、お客さんは失敗したくないので、「せっかく来たのに食べられないなら、もういいや」と他に流れるケースはありますね。
  私は、食品ロスが問題になっている時代の流れで、食材を残したくないというお客さんに対するメッセージとして売り切れも受け入れられるかなと思っています。コロナ後も深夜枠が弱くなっているので、そこで調整してデータを取っていかないと、トリミング後のロスだと、それこそグラムいくらでの損失となりますから。
《万両 肥後橋店》の外観
《万両 肥後橋店》の外観
あの大阪の大繁盛店が最初で最後の登壇!!●後編●
繁盛店の裏側と焼肉業界のこれから
大阪《焼肉 万両》×尼崎《味楽園》
出店費用のハードル高くミニマムな店が今後進化
前編では、独特な経営と現場主義で繁盛店を作り上げてきた経緯を語った「焼肉 万両」代表の滝本昭人さんが、後編でも教育や出店などに関する取り組み方や今、気になることなどを余すことなく披露した。滝本氏の「最初で最後のセミナー」は焼肉業界以外の人も必聴だ(2023年7月5・6日に開催された「外食ソリューションEXPO」でのセミナーを再録)。
パネリスト
万両代表取締役
滝本昭人さん
●たきもと・あきひと●
1967年大阪府大阪市生まれ。25歳の時に廃業した9席の焼肉店を任され独立。大阪市内に店舗展開を絞り6店舗を運営。「ハイクオリティ大衆店」を目指し、飲食店の基本原則である「おいしくて安い」を地で行く経営スタイルで繁盛させている。
テムジン代表取締役社長
康 虎哲さん
●かん・ほちょる●
1974年兵庫県尼崎市生まれ。幼少期から家業の《味楽園》を手伝い高校卒業後に社員として就職。24~26歳の時に東京《叙々苑》で修業した後、実家に戻り現在に至る。先代の想いを引き継ぎ「1店舗重点主義」を掲げ、常に現場に立ち続けている。
損益分岐点高すぎて満席でないと赤字に
《万両 東天満店》の銅瓦を使った外観
《万両 東天満店》の銅瓦を使った外観
康虎哲(以下、康) では次にFLの裏側について。先程の83%というのは飲食業界で初めて聞く数字で、どこか間違っているんじゃないかと思ったんですが。
滝本昭人(以下、滝本) 後付け経営の悪い部分という面もあると思います。自分ならこうするなと出していくうちに、後付けでこうなったという。家賃が安い所でないと出店しにくいし、損益分岐点が非常に高いので、繁盛していると言われますが、逆に繁盛しないとすぐに赤字になるギリギリのところです。
  常に満席で予約が取れない状況で埋め尽くしてのF50%台ということですか。どう考えても、それはヤバいですね。
滝本 ヤバいと思います。それが逆にうちの強みになってしまって、ライバルを寄せ付けないという形にもなっているので、これも後付け経営ですね。
  でも逆に、満席の状態をイメージした値付けは計算しやすいですね。アイドルタイムがなく常に埋まっている状況じゃないですか。
一時期の「俺のイタリアン」や「俺のフレンチ」も、常に何回転かした状態での利益確保を考えてあの値付けをしていました。
滝本 だから危ういわけですよ。要は満席でないとすぐに赤字転落するわけですから。損益分岐点が高すぎて危ういけれど、その危ういところがお客さんに支持されている部分でもあるので。
  確かに50%台じゃ真似しようとも思いませんし、お手上げです。これは独走状態ですよ。ではLはどうですか。今の時給はいくらですか。
滝本 時給はスタンダード1200円で、深夜は1500円です。
  アルバイトで出来る子の最高額はいくらですか。
滝本 土日出る子は1250円で、100円上げている子もいるので、1350円か1400円近くです。
  スタッフは集まりますか。
滝本 募集すれば、なんとか集まります。
  Lで28%ということは、社員比率が高いんですか。
滝本 社員比率は20%弱でアルバイトメインです。でも最近のアルバイトは真面目でよく頑張ってくれます。むしろトレーナーの方がよくないんじゃないかと思います。
  自分達がこう教わってきたからと、同じように教えるけれど、今の若い子達は感性が違うんですよね。だから今の子に合わせたティーチングやコーチングが大事です。
滝本 すごく大事ですね。トレーニングさえしっかりすれば、若い子は確実に伸びます。怒られた時に女の子が泣いたりしますけど、別にそれで辞めたりはしないですね。
  職場環境がいいんでしょうね。
滝本 私も現場に立って教育しているんですが、トレーナーの方ができてない気がしますね。店長クラスはいいけれど、その次のクラスはトレーニングとしてできていない。
外せないポイントは、理由を説明することなんです。今の若い子は理由を説明しないと反応が少ない。例えば「お客さんに喜んでもらわないといけないよ」と言っても動かない。どうして喜んでもらわないといけないのかまで落とし込まないといけないんです。   理解と納得をダブルで与えないとダメなんですね。
滝本 理由を説明しないで、とりあえずこれをこうやってという指示では動きが悪いです。
《万両 肥後橋店》の〈元祖 幻カルビ〉
《万両 肥後橋店》の〈元祖 幻カルビ〉
仕事の意味伝えれば若い子はすぐ伸びる
《万両 東天満店》で1日3食限定の〈極上骨付きカルビ〉
《万両 東天満店》で1日3食限定の〈極上骨付きカルビ〉
 「俺らの時は」と言ってもついてこないですもんね、今の子は。
滝本 一部昭和的なスタッフもいて、この業界で頑張っていこう、飲食店で独立しようと思っているメンバーは自分から吸収しにいくんですよ。でもアルバイトは理由を説明しないと動かない。逆に理由を説明すれば確実に動きます。
  それは素直ということですよね。すぐ受け入れて動けるというのは。
滝本 訳のわからないことはやらないというのが最近の傾向に思えます。「とりあえず、この料理を持って行って」と言われ、その通りにしたのに怒られたりしたら、確実に拗ねます。
  作業ではなく仕事の意味を教えるってことですよね。
滝本 若い子も知りたいんですよね。だから例えば、ワインは葡萄からできるんだけどなんで他の果物じゃなく葡萄なのかと説明すれば、ワインのことに興味を持ってくれます。そういう説明を喜びます。
  分かりやすいですよね。すごくロジカルなのに専門用語を使わずに紐解いていくから、どんどん入ってきますね。
滝本 サービスとは何かという話の中で、日本語ではどう訳すのかスタッフに質問すると、「おもてなし」や「やさしくする」などと答えますが、大体当たりません。康さんは、日本語で何だと思います。
  サーブするということですから「提供する」ということですか。
滝本 それも違います。カスタマーサービスという言葉があり、カスタマーはお客さんだから、サービスの日本語もありますよね。10年ほど前までトヨタやパナソニックなどの公式サイトに書いてあったんです。それは「顧客満足」です。サービスというのは「満足」だと。若い子達は「おもてなしの方がいいじゃん」と言うんですが、満足は相手が喜ばないと成立しないんですよね。
  一方通行ではないですもんね。
滝本 そういうことです。満足しないとダメだから、例えば1階での最初の接客が悪くて「少々お待ちください」とずっと待たせっぱなしにして2階に案内した時に、スタッフが「いらっしゃいませ」と、いくら喜んでもらおうとおもてなしの心をもって言っても、それは届かないよと。気持ちだけでは相手に響かない。そういう時は2階に上がって「下でお待たせしてしまって申し訳ありません。すぐにオーダー聞いて料理出しますので」と言ってもらった方が喜びます。それを説明します。
そして唯一お客さんが満足したかどうか判るタイミングがある。それが、お客さんからの「ありがとう」なんです。最近、飲食店に行ってありがとうって言ったことありますか。私らはしょっちゅう言うけど、なかなかカップルとかは言わないですよね。だから言った時がベストタイミングだよと説明します。
取り皿を最初に置いているのはもちろんサービスなんですけど、例えば〈クッパ〉を注文したお客さんから「取り皿ちょうだい」と言われて取り皿が出てきても感動はない。けれど、料理と一緒に「お分けする取り皿お出しします」と持っていったら「ありがとう」と言ってくれるんですよ。これが同じサービスでの「ありがとうの違い」だということを、大学生に懇々と説明しますね。
  サービス料は取ってないですよね。
滝本 取ってないです。そして、「ありがとう」を言われるタイミングを集めないといけないということで、スタッフから報告が来るんですよ。「今日ありがとうって言われました」と。それに「どんなタイミングで言われたの」と返すと、そんなタイミングでも言われるんだって話になって、このありがとうの積み重ねが、確実に店の力を上げていきます。彼らも本当は仕事をやりたいんです。頑張りたいんですよ。でも店のスタッフから「これ持って行って」と、とりあえずの仕事ばかりさせられる。塩かタレかを聞かないといけないと言われるけど、なぜ塩とタレなのかを教えてあげると確実に伸びます。
2店目の出店時にはオーナーが出るべき
  では続いて、値上げのタイミングについて。これは本当に難しくて、卵の価格が上がって野菜が上がって、他の食材も全部上がりました。値上げは本当にデリケートな部分で、海外は合理的でポンポン値上げするんですが、日本は「値上げは悪」みたいな雰囲気があります。お客さんに申し訳ないみたいな引け目を感じる部分があるんですけど、値上げしないともう無理ですよね。ただ、どのタイミングで値上げすればいいのか。「万両」さんはいつ値上げしますか。
滝本 値上げは本当に厳しい。だいぶ我慢してきましたけど、今月(23年7月)には、上げざるを得ないですね。ABC分析のCはいくら上げても一緒なので、いよいよ〈タン〉〈ハラミ〉も上げないといけない時期になってきたなと。
  22年は値上げしてないんですか。
滝本 少し値上げしました。ここのバランスが悪いなと2回も値上げしていますけど、値上げは非常に怖い。
  「万両」に来るお客さんは、メニューを見ますか。
滝本 見てますよ。今回も少しずつ上げてますけど、お客さんの単価が思ったほど上がってないんです。
  3人前を2人前にするとか。
滝本 お客さんはすごくシビアで、30円程度上げても「値段上げたね」と常連さんに言われます。消費者をなめたらいけないと思いますね。
  私も何度か値上げの経験はあるんですが、あちこち修正しながら価格変更してると、何やっているんだか分からなくなりますよね。色々なパターンを想定して、こうしたらここがおかしくなるとか、すごくデリケートなんですよね。ただ値上げをしないともう無理。従業員の時給も上げられない。
滝本 大阪万博も近づいて、もっとスタッフの時給を上げないといけない時代になる。梅田に公園ができて、「KITTE大阪」や駅ビルなどが計画通りにできると、24年4月には2000人ぐらいのアルバイトが梅田に吸収されます。
  東京の時給は1400円スタートですからね。万博時の時給が2000円ぐらいになったら、若い子達はみんなそっちに流れそうですね。
滝本 万博は一時的なイベントですが、梅田では間違いなく激戦状況が続くので、1400円が最低になるとすると値上げも必然かなという。
  時給1400円は恐ろしい話です。私ら高校生の時は600円くらいだった記憶があります。
滝本 この問題は本当にシビアなので、少しずつ上げるか、一気にドンと上げるかなど、判断が難しいです。
  では次に店舗展開の悩みです。6店舗経営する中で、まず1店目から2店目に増えた時、3店目を出そうと思ったタイミングなど、大体の流れを話してください。
滝本 何より2店目が一番難しい。皆さん悩むところが2店目で、ものすごくしんどい。1店目が順調に流行った時、朝からずっとタンばかり切っていて、お客さんとも話が出来ないし飽きたなと感じていた時に偶然、「近所に安い物件があるよ」と不動産会社のお客さんに教えられて出したのが2店目なんです。2店目で失敗している先輩もたくさんいたので、私が言えることは、2店目はオーナーが行かないとダメ。若い子に任せて力を試すという方法だと、大体滑ります。
  オーナーは本店を守るというイメージがあるんですが。
滝本 私の考え方ですけど、本店はもう出来上がっているので、そこはある程度お客さんが来てくれる。オーナーが前面に出て、どのお客さんのオーダーも取るというシステムなら別ですが。ほとんど厨房にいるなら余っているということなので、2店目は絶対にオーナーが行くべきだと私は思います。そうしないと本店のモノマネまでが限度になる。経営者以上のスタッフは育たないのと一緒で、経営者が勉強して伸びていかないと下も伸びない。
2店目がしんどいというのは、仮に1店目で利益が100万円残っていたとしましょう。2店目を開店した時は、100万円は残らず半分の50万円ぐらい残ればいいかという感覚でした。蓋を開けてみたら同じ売上なのに20万円程度しか残らなかった。なぜかというと結局、自分の仕事への人件費なんですよね。自分が他のスタッフの3倍くらい働いてるから、自分が抜けたら、その仕事をカバーするために3人ぐらい人がいるんです。自慢ではないんですが、自分は3倍働いていたんだと分かりました。
結局、その人件費が削られて20万円になった。だから2店目を同じように繁盛させても2店で120万円なんですよ。そこで折れてしまったり、2店目が思っている以上に売上が上がらないからと本店が支えるような感じになると、2店目は滑ってしまいます。
《万両 天神橋店》の外観
《万両 天神橋店》の外観
《万両 日本橋店》の鏡面仕上げした焼肉プレート
《万両 日本橋店》の鏡面仕上げした焼肉プレート
良い肉もすぐに出し今の顧客に全力投球
  では次に、これからの焼肉業界はどのような方向に向かうと思いますか。みんなが価格を上げだすと、逆に下げる店が出てくるわけです。元のクオリティを下げられないので、色々な手段で低単価にする店が出てきたり、業態フォーマットが進化したり。会員制や割烹風スタイルの店が、どんどんクオリティを上げてくる可能性もある。それと新興勢力として、焼肉以外の大手チェーンや居酒屋が焼肉業界に進出してきたり。どういう流れになるかの大まかな予想はどうでしょうか。
滝本 康さんは、どう思いますか。
  私は単純で、世界が滅びるとなった時、最後に残る飲食店は焼肉だと思っているんですよ。色々な業種業態がある中でも、肉を焼くというのは、人類史上最古の調理法です。だから焼肉は最後まで残るんじゃないかという単純な考えで頑張っています。アッパーな店から低価格の食べ放題まで、色々な店がある中で、逆にうちはこのスタンスでいこうと明確に決まっているので、ブレずにこのまま淡々とやり続けるのみです。でも時流や流行はすごく気にしますし、SNSもチェックします。
滝本 見てるじゃないですか。
  メンタルが弱いので口コミは見ないです。でも業界の動向や焼肉以外の業種の流行りや流れはすごく見ます。頑なに「うちはこうだ」と言い切るんじゃなくて、見て分かった上で、「うちはこうしていきます」とやっていきたいので、周りがどんどん進化しても恐らく私のスタンスは変わらないと思います。
タレに漬かった昔ながらのオーソドックスでスタンダードでノスタルジックな焼肉店を、10年後も20年後も続けていけたらいいなという気持ちです。さまざまな焼肉店が増えるから昔ながらの店が際立つ。音楽もファッションもそうですよね。サイクルは速くなっているけれど、何年か経てばまた戻ってくると思うんです。
滝本 今は若手がいっぱい出てきています。小さいフォーマットで、店を運営するケースが多くなっていますよね。立ち飲み系みたいなミニマムな店が。少し大きな店を出そうと思ったら、すぐに5000万円、6000万円と出店費用がかさむのでハードルが高い。だからミニマムな店が、これからも進化し続けていくんじゃないかなというのは思います。
若手のことを私達オールドのメンバーが考えるのは難しいので、うちに勤めている店長達の今後の独立などを考えています。今だに1~2週に1回は試食していて、まだ食べるんですかと従業員に言われるけれど、「こうした方がいい。こういう切り方でいこう」というのはありますね。そんな中でも映えるメニューは考えていきます。映えは1回きりで、写真を撮ったら再来店につながるかどうかという部分はあるとは思いますけど。
あと、例えば肉には当然個体差があるので、いいお肉の時もあれば、ちょっと良くないかなという時もあって、スタッフから良い肉やホルモンがある時に、「これ食べたら、次に来た時にだいぶショックを受けるんじゃないかな」とよく言われるんですよ。そういう時は「まずはここに来たお客さんにおいしかったと思わせないと、次はないよ」と伝えています。次のことを考えていたら、それはもう厳しいですよ。
これからの飲食店経営はもっと厳しくなっていくと思うので、今しかないです。今来ているお客さんを満足させることに全力投球しないと。   それがすべての答えですね。
《味楽園》の1階はバリアフリーとなっている
《味楽園》の1階はバリアフリーとなっている
CK作らず味継承し先輩後輩の関係醸成
滝本 あと私自身が今こだわっているのは焼き台です。「但馬屋」の伊藤勝也社長も全店舗でロースターを入れ替えました。うちも今、鉄板を入れ替えています。
  日本橋店の鉄板がすごいんです。焼肉店の鉄板の入れ替えって重労働ですけど、ここでは取り替えない。なぜかと言うと、鉄板が、ステーキハウスや鉄板焼き店と同じ鏡面仕上げで、隣にスクレーパーが置いてあるので、焦げた時はお客さんがスクレーパーできれいに汚れを取れるんです。
滝本 鉄板交換は今、100円頂いていますね。ウーロン茶は無料なのに鉄板交換は有料。でも交換してくれというお客さんはいませんね。もちろんお客さんが帰った後には替えますよ。それだけなので、鉄板の交換は回転数分だけですね。
  進化していますね。
滝本 焼き台のメーカーもたくさんあるので、30年に向けてオリジナル鉄板を作りたいと考えています。
  では〆として、今後の展開について。
滝本 注目しているのはフードロスです。どうしても余りが出てきますので、それを焼肉店がどういう風に使えるかということを考えていますね。
昔は余り物で商売するなと結構怒られたんですけれど、今はフードロスという言葉ができたので、それを活かした何かミニマムな業態を検討しています。バラが市場に余っているので、その辺をうまく使える業態も考えてはいます。
  それでは、会場からの質問を取り上げます。セントラルキッチン(CK)を持たずに店舗でカットしているということですが、どのように各店舗のカットの技術力を向上させたり教育したりしているんでしょうか。
滝本 私は開店当初、スタッフが帰ってから仕込みをしていたんですね。味こそが全てだから味がバレないようにと、冷麺用も含めて店内で手作りしていました。ある時40℃以上の熱が出て倒れてしまい、自分の限界を感じました。それからは、タレも含めて少しずつレシピを公開したんですね。
それで非常にいい効果が出てきて、その1つが、飲食店には色々な年齢の人がいる中で、ある時、自分の先輩のことをいつも悪く言っていた店長が、タレを作りながら「これはあの先輩が教えてくれたから、こういう風にして焦がしたらダメだ」と、調理法を代々受け継いでいて、しっかり上下関係ができてるなと感じたんです。だから、うちのタレを外注で作ってもらうことは可能なんですが、教育の一環として、先輩と後輩の関係が続いていくようにと思って店内で作っています。
CKで作って真空包装して、店ではハサミで切って出すだけだと「お前ら。サービスはこうやるんだ」と言っても、なかなか説得力がないんですよ。ハサミで切って混ぜるだけなのに、なんで店長あんなに偉そうやねんという風になると思うんです。店長が大きな肉を捌きながら「今のお客さんのところにはイの一番で行かないかんやん」と教えていると、格好よくて尊敬されるんですよね。
  背中で見せるってことですよね。
滝本 それも目の前でやっているので言葉が響くと思います。CKだと誰でもできるようになるので、店長の言葉が響かなくなります。
  次の質問です。長く続けていることでの強みは肉の仕入れだと思うんですが、仕入れの人といい人間関係を構築したり、いい物を安く仕入れられる秘訣やコツはありますか。
滝本 安く仕入れるということは、肉だけでなく酒販店にも言います。「うちはこの値段で売っていて、決して儲けているわけではないので、長く続くためにはできる限りギリギリにしてほしい」とお願いしています。人間関係を構築して、そういうお願いをするしかないと思ってます。担当の営業では判断が難しいと思うので、社長の所までいってお願いしないと厳しいと思います。
  まとめると、社長の人柄が店柄ということですね。今日はありがとうございました。
《味楽園》オリジナルの厚切りタン塩〈タンソルト〉
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